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横浜地方裁判所 昭和53年(ワ)1550号 判決

原告

舘野柄子

被告

株式会社相模原綜合青果市場

ほか一名

主文

被告らは原告に対し各自金一一四八万六八七七円及び内金一〇四八万六八七七円に対する昭和五〇年一月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告らの各負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  請求の趣旨

被告らは各自原告に対し金二三九六万六〇六三円及び内金二一九六万六〇六三円に対する昭和五〇年一月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者双方の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生(以下、本件事故という)

原告は次の交通事故により傷害を受けた。

(一) 日時 昭和五〇年一月二一日午前七時一〇分頃

(二) 場所 神奈川県相模原市西大沼五―一三先路上

(三) 加害車両 普通貨物自動車(相模11さ九三八二)

運転者 被告多田昭男

(四) 被害車両 普通乗用自動車(相模56す三九三〇)

運転者 原告

(五) 態様 被害車両が本件事故発生場所付近路上を大沼十字路方面から国立病院方面に向けて進行中、反対方向から進行してきた加害車両が右地点のカーブを曲りきれずセンターラインを越えて対向車線に進出し被害車両に衝突した。

(六) 傷害 頭部外傷、頭蓋骨骨折、脳挫傷、外傷性くも膜下出血、外傷性気胸

(七) 後遺障害―自賠法施行令別表後遺障害等級表の七級

(イ) 外ぼうの醜状―右額部色素沈着(47×25mm)、右頬部瘢痕(23×27mm)、左眼瞼部線状痕(15mm)、口唇左端線状痕(6mm)

(ロ) 嗅覚喪失、味覚障害、視力低下(左〇・六、右〇・五)、視野狭窄、記憶障害、集中力低下

(ハ) 頭痛、頭重感、胸背部痛

2  責任原因

(一) 被告会社は加害車両を所有し自己のため運行の用に供する者であるところ、本件事故は右運行によつて発生したものである。従つて、被告会社は原告に対し本件事故による損害につき自賠法三条に基づく賠償責任がある。

(二) 被告多田は、加害車両を運転しセンターラインを越えて対向車線に進出し被害車両に衝突したのであるから道路交通法による通行区分遵守義務に違反した過失があることは明らかである。従つて、右被告は原告に対し民法七〇九条に基づく損害賠償責任がある。

3  損害 合計金二二八八万八九三〇円

(一) 治療費 金一一万八三二九円

内訳 北里大学病院分 金五万八六一九円

丘の上病院分 金一万六九九〇円

新井歯科医院分 金四万二七二〇円

(二) 入、通院雑費 金一一万七〇〇〇円

(三) 入院付添費 金五万五〇〇〇円

入院期間中原告が人事不省であつた二二日間につき一日金二五〇〇円の割合。

(四) 通院交通費 金四六万九九六〇円

明細は別表記載のとおり。

(五) 休業損害 金二五六万九四七六円

原告は家庭の主婦であるところ、本件事故による傷害を治療するため、左記のとおり入、通院し、五四日間の入院期間及びその後の三三カ月の通院期間、全部又は一部家事労働に従事することができなかつた。家事労働の損害については女子労働者の平均賃金を基準として算定するのを相当とし、昭和五〇年度女子労働者(三三歳)の平均賃金は月額金一二万六七〇〇円であるから、原告は右のとおり全部又は一部家事労働に従事することができなかつたことにより右賃金相当額を基準として算定される損害を蒙つたといえるのであつて、入院期間の損害額は金二二万八〇六〇円(一二万六七〇〇円÷三〇×五四日)、通院期間の損害額は金二三四万一四一六円((一二万六七〇〇円×〇・五六(後遺障害等級七級の労働能力喪失率)×三三カ月))で、休業損害は計金二五六万九四七六円となる。

(1) 入院 相模原中央病院

自昭和五〇年一月二一日至同年三月一五日 五四日間

(2) 通院 実日数合計三〇二日

相模原中央病院

自昭和五〇年三月二〇日至同年一二月三一日 実日数七〇日

自昭和五一年一月一日至同年一二月三一日 実日数一三〇日

自昭和五二年一月一日至同年一二月一三日 実日数五九日

新井歯科医院

自昭和五〇年五月二日至同年七月一一日 実日数一三日

北里大学病院(眼科)

自昭和五〇年三月二九日至同五一年七月一二日 実日数一八日

北里大学病院(耳鼻科)

自昭和五〇年一一月一二日至同五一年六月一五日 実日数一二〇日

(六) 逸失利益 金一三五三万九六六七円

原告は前記後遺障害によつて家事労働能力を五六パーセント喪失した。原告は後遺障害の症状固定時三五歳であつて右状態はすくなくとも平均的稼働可能年齢である満六七歳まで三二年間は継続するものと予想され、原告は右期間中毎年女子労働者の平均賃金の五六パーセントに相当する利益を喪失し同額の損害を蒙るものといえる。

前記の女子労働者の平均賃金一二万六七〇〇円(月額)を基礎としてライプニツツ式計算方法により年五分の割合による中間利息を控除して右逸失利益を現価に引直して計算すると次式のとおり金一三五三万九六六七円となる。

金一二万七五〇〇円×一二カ月×〇・五六×一五・八〇二六(三二年間のライプニツツ係数)

(七) 入、通院慰藉料 金一六八万円

(八) 後遺障害慰藉料 金四一八万円

(九) 育児費用 金一三万六四九八円

七〇日間につき一日金二五〇〇円の割合で合計金一七万五〇〇〇円の内金

(一〇) 医師等に対する謝礼 金二万三〇〇〇円

4  填補 金九二万二八六七円

(一) 原告は、本件事故の損害につき自賠責保険金九二万二八六七円の支払を受けた。

(二) よつて、原告はこれを前記の(一)、(二)、(四)、(九)及び(一〇)の損害合計金九二万二八六七円の填補に充当する。

右填補後の損害額は金二一九六万六〇六三円となる。

5  弁護士費用 金二〇〇万円

6  よつて、原告は被告らに対し各自金二三九六万六〇六三円及び弁護士費用金二〇〇万円を除く内金二一九六万六〇六三円に対する本件事故発生の翌日である昭和五〇年一月二二日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1項の(一)ないし(五)の事実は認める。同項の(六)、(七)の事実は知らない。

2  同2項の事実は認める。

3  同3項の事実は知らない。

4  同4項の(一)の事実は認めるが、同項の(二)の充当方法は争う。

5  同5項は争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1項の(一)ないし(五)の事実は当事者間に争いがなく、いずれもその原本の存在及び成立に争いのない甲第一、第二号証、第五ないし第九号証、成立に争いのない甲第一三、第一四号証、乙第一号証、原告本人尋問の結果を総合すると請求原因1項の(六)(傷害)及び(七)(後遺障害)の各事実を認定することができる。そして、右認定の後遺障害は自賠法施行令別表の後遺障害等級表の七級に該当する。

二  請求原因2項の(一)、(二)の事実は当事者間に争いがない。

三  そこで、損害につき検討する。

(一)  治療費 金一一万八三二九円

成立に争いのない甲第一五ないし第二〇号証によれば請求原因3項の(一)の損害の発生を認めることができる。

(二)  入院雑費 金二万七〇〇〇円

前掲甲第二号証によれば原告が前記傷害治療のため昭和五〇年一月二一日から同年三月一五日まで五四日間相模原中央病院に入院した事実が認められるところ、右入院期間支出したものと推認できる雑費の損害を一日金五〇〇円の割合で計金二万七〇〇〇円とするのが相当である。しかし、通院期間の雑費をただちに定額の割合で認めるのは不相当である。

(三)  入院付添費 金五万五〇〇〇円

右入院期間のうち原告が主張する二二日間につき一日金二五〇〇円の割合で計金五万五〇〇〇円を付添費の損害とするのが相当である。

(四)  通院交通費 金四六万九九六〇円

証人舘野秀雄の証言及び右証言によつて成立を認めることのできる甲第二三号証、第二四号証の一ないし一六七によれば請求原因3項の(四)の通院交通費金四六万九九六〇円の損害の発生を認めることができる。

(五)  休業損害 金五一万二五〇〇円

前掲甲第二号証、第九号証、いずれもその原本の存在及び成立に争いのない甲第三、第四号証、成立に争いのない甲第一〇号証、証人舘野秀雄の証言、原告本人尋問の結果を総合すると原告が日本電気に勤務する秀雄の妻で同人との間に小学六年生と五年生の二児をもつ家庭の主婦であるところ、本件事故による傷害を治療するため、請求原因3項の(五)記載のとおり入、通院し、五四日の入院期間については全部、その後の通院期間のうち実日数三〇二日については一部家事労働に従事することができなかつた事実が認められる。

ところで、家事労働に従事することができないことにより損害が発生することは当然であつて、その損害額は女子労働者の平均賃金を参与にしながら拘束労働でないことや社会的、経済的事情等を斟酌したうえで、一日金二五〇〇円として算定するのが相当である。従つて、原告は右のとおり全部又は一部家事労働に従事することができなかつたことにより右金額を基準として算定される損害を受けたといえる。すなわち、入院期間の損害は金一三万五〇〇〇円(金二五〇〇円×五四日)、通院期間の損害については、傷害の部位、程度、通院治療の所要時間等を考慮して一日金二五〇〇円の二分の一とするのを相当としこの額によつて金三七万七五〇〇円(金二五〇〇円×〇・五×三〇二日)で休業損害は計金五一万二五〇〇円となる。

(六)  逸失利益 金五〇四万六九五五円

原告が自賠法施行令別表の後遺障害等級の七級に該当する後遺障害を受けた事実は前記のとおりであつて右別表によれば労働能力喪失率が五六パーセントであることが明らかである。しかし、原告の後遺障害の部位、内容、程度と原告が従事する労働が家事労働であることからすれば右喪失率をそのまま原告に適用するのは不相当であり、原告の年齢、家族構成その他諸般の事情を考慮して労働能力喪失率を三五パーセントとするのが相当である。ところで、原告は後遺障害の症状固定時満三五歳であつて右労働能力喪失の状態はすくなくとも原告が主張する満六七歳まで三二年間は継続するものと予想され、原告は右期間中毎年前記の一日金二五〇〇円年間金九一万二五〇〇円の三五パーセントに相当する損害を受けるものといえる。右年間の金額を基礎としてライプニツツ式計算方法により年五分の割合による中間利息を控除して右逸失利益を現価に引直して計算すると次式のとおり金五〇四万六九五五円となる。

金九一万二五〇〇円×〇・三五×一五・八〇二六(三二年間のライプニツツ係数)

(七)  入、通院慰藉料 金一〇〇万円

原告の傷害の部位、程度、入、通院期間を考慮すると慰藉料額は金一〇〇万円が相当である。

(八)  後遺障害慰藉料 金四一八万円

後遺障害の部位、同容、程度に原告の年齢、身分、家庭の状況等諸般の事情を考慮すると慰藉料額は金四一八万円が相当である。

(九)  育児費用

甲第二一号証及び証人舘野秀雄の証言によつてはいまだ請求原因3項の(九)の育児費用の損害発生を認めるに足りず、他に的確な証拠もない。又、右損害をただちには本件事故と相当因果関係にたつ損害とすることも相当ではない。

(一〇)  医師等に対する謝礼

原告主張の医師等に対する謝礼については本件事故と相当因果関係にある損害とするのは相当ではない。

四  填補 金九二万二八六七円

請求原因4項の(一)の事実は当事者間に争いがない。原告が本件事故の損害につき支払を受けた保険金九二万二八六七円を前記損害合計金一一四〇万九七四四円の一部の填補に充当すると残余の損害額は金一〇四八万六八七七円となる。

五  弁護士費用 金一〇〇万円

本件事案の内容、訴訟経過、認容額等諸般の事情を考慮すると弁護士費用の損害額は金一〇〇万円が相当である。

六  よつて、原告の本訴請求中被告らに対し、各自金一一四八万六八七七円及び弁護士費用の損害額を除く内金一〇四八万六八七七円に対する本件事故発生の日の翌日である昭和五〇年一月二二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるから右限度でこれを認容し、その余は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条本文、九三条一項本文、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 高瀬秀雄)

別紙 〈省略〉

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